ラマーズ法は催眠の応用
2006/01/20改訂
2000/04/15初稿
私は催眠にかからない?
以前に面白い体験をしました。ある主婦の方に御会いした折に「私は催眠なんて信じないし、催眠になんてかからない!!」と猛烈に言われたのです。
ご自分で私のホームページをみて面談を申し込んできたのに、直接、お会いすれば催眠そのものを否定する。不思議な話だと思いませんか?
まあ、私にすれば「またか」と言う感じなんですけどね。ご本人に心理的な抵抗感があるのでしょう。悩みや苦しみを打ち明けたいと望み、自分を救ってくれる人や施設、病院を探しながらそれが見つかりそうだと思うととても怖くなる。
これまでもそういったことの繰り返しなのでしょう。催眠の場合、直前になって逃げ出してしまう人も時折、いらっしゃいます。無理もない話で自分の過去の経験、恥ずかしい部分や悩み事を他人に相談するのはとても勇気の要ることなんですよ。
自分の全てを知られるのではないか?との錯覚も生まれがちなので、否定してもおかしくはないでしょう。私としては無理に催眠を勧めることはまったくないのですが(笑)。向き不向きもありますし、かかる人もかからない人もいらっしゃいます。むしろカウンセリングや面談のみで解消を計ることもあり、環境整備も含めた総合的なバランスで捉えています。
私の場合、催眠を用いるかどうかは、事前によくお話を聞いてから決めています。
ご本人が気がついていないだけ(笑)
どういった相談を受けていたかどうかは割愛します。このコーナーでは催眠の応用方法、一般に浸透している技術について記述します。
打ち合わせのためにお話をする(当時は事務所ではなく、依頼者指定の喫茶店でした)うちに、面白い部分に気が付いたのです。
その方は以前に出産されていました。その出産された病院が、私のよく知っている病院だったんですよね。関西にある病院です。そこの病院は無痛分娩、俗に言われる「ラマーズ法」を実践されており、当然、その主婦の方も、呼吸法や方法を習い、練習会に参加されていたのです。
「実際の出産の際に、痛みはありましたか?」と聞くと「まったく痛くなかった」のだそうです。
これには思わず、笑ってしまいました。
その病院にラマーズ法の指導、つまり呼吸法や観念動作、催眠の応用の技術を用い、従来のやり方にアレンジを加えたのが他ならぬ私だったからです。
昔は否定されていました
今でこそ、ある種、ポピュラーになりましたが、ラマーズ法って初期の頃は徹底的に否定されたんですよね(笑)。取り入れていた病院や施設は皆無に等しかったと思います。特に日本では用いる所がありませんでした。
理由は「なぜ、効くのかよくわからないから」です。
「旦那が側にいて、奥さんの手を握り、『ハッハ、ヒッヒ、フウフウ』と呼吸を繰返すと出産の痛みが消えるなんて、馬鹿みたい」 と、言われた物ですね。
確かに横で見てると、「ほんとかなー?」と思いますよね。呼吸法や手を握る程度で痛みが消えるなら麻酔はいらない。殆どの痛みとか苦しみが、その方法で消えることになりますから。
海外の映画やドラマにも、ラマーズ法のシーンが何度も登場します。よくあるのは手術着や入院着、妊産服に着替えた奥さんの横で、ご主人が必死に手を握っているシーンや、医療もののドラマで妊産婦が複数集められて医者(またはカウンセラー)が指導を行っており、ご主人がそれに付き添うシーンです。
古い話ですが、私が中学生の頃に観た映画(主演は確か、スティーブ、マックイーン)でも、主人公が奥さんの手を握り、必死で呼吸法を一緒にやってました。
当時、の私はちょっと感動すると共に、「あれで本当に効果があるんだろうか?」と不思議に思ったものです。ちょうど、催眠に興味を持った頃とも重なりますね。初代の引田天功さんがお亡くなりになった頃でしょうか?
本当に「効く」かどうか?
私はいわゆる実践主義です(笑)。誰が否定しているからなんて関係ないんです。常識と異なる、今の手法と違うも関係ない。周囲がどう思っているか、それが世間に浸透しているかどうか?よりも、その方法で実際に痛みが消えた、と言う報告があるかどうか?という事実が重要なんですよ。
その情報が嘘でもインチキでも偶然でもいいんです。偶然であるかどうかは、確かめてみればわかってくるでしょう。
実際の報告例が何件かあって、それが増加する傾向があるならば、当然そこには何かの必然、つまり理由や原因が存在すると考えます。
催眠やプラセボ(プラシーボとも言います。にせ薬)効果なんてのもそうです。初期の頃は誰も信用しませんでしたが、徐々に常識化したものもある。効果があるなら、技術として確立すべきで調べるのが当然でしょう。
まして暗示の場合には身体的には悪い影響がない。投薬とは違い副作用もないでしょう。手を握るだけでも何でも、効けばいいんです。
以前に映画から衝撃を受け、知り合いの医者からそのような話(ラマーズ法が効く)をされた私は、ラマーズ法についても興味を持ち、文献を漁ってみることにしました。
観念動作「振り子の運動」
病院でラマーズ法を取り入れている所ではですね、昔のように呼吸法を中心に教えるより先に観念動作、ペンジュラム(振り子)を持たせて、見つめさせる部分から始める所が増えています。
振り子を持たせてじっと見つめさせ、意識を集中して回転するように「願う」という手法は、ダウジング(興味のある人は検索してください)や自己暗示の方法として心理学で習うものです。
要するに、振り子を意識させることで無意識の行動、筋反射を微妙に起こさせるようにして振り子を自在に操る練習をするのです。
これが催眠でなくて何なのでしょう(笑)。催眠を勉強する時に基礎に行う「観念動作」とまったく同じ物なのですよ。
律神経の訓練法でもよくペンジュラムは用います。まあ、あまりに観念動作にこだわり過ぎると、かえって理解から遠のく事がありますので、私は行っていませんが。意識を集中させるために、ペンジュラムや光をじっと見つめさせるのは用よくある方法ですね。
ペンジュラムを片手に持たせて、じっとその先を見させます。
「私が右に回る、と思うと自然に振り子が右に回りはじめる」と意識させるのです。すると、あーら不思議、自分では力を加えているつもりもないのに、だんだん、振り子は右に回り始めるのです。
いわゆる、無意識の領域に自分の意識を向け、集中させるために振り子などの小道具を用いる訳ですね。
簡単な解説
ラマーズ法について、詳しい解説はここでは避けます。諸説あり、また解説だけもかなり長くなってしまいますから。
ここで「それが本当かどうか?」を論議する必要はありません。大切なのは、その技法、手法を用い妊産婦の方の痛みを軽減させるために、積極的に導入、指導している病院が現実に増えていることなんです。
ラマーズ法の基礎的な概念としては、観念動作や呼吸法を用い、「自分の内側(もしくはパートナーの男性)に意識を集中させる」ようにして、痛みとは違う部分に意識を集中、それを徐々に変革して方向性を持たせ、最終的には痛みを「自分の意志で」コントロールするようにしてしまおうと考えられた内容です。
こう書くと難しいですね(笑)。漫才のような話で例えると「足が痛いから頭をもっと強く叩こう。するとそっちの痛みで足の痛みを忘れる」ってなモンでしょうか? ちょっと似ています。
これは流石に例えが悪いですね。わかり易く言うと歯の痛みがあります。
神経がむき出しになって痛みがあるならば、それが和らいだり、強くなったりするのはおかしいですよね?「痛いモンは痛い!!」んですから。
ところが、我慢しているとスーッと痛みが引く瞬間があります。注意しているとわかるんですが「気が付くと」痛みが消えている場合があります。不思議には思いませんか?
これを医学的に解説するならば、脳内から痛みを中和するホルモンが分泌されていることになります。要するに「自己麻酔」ですね(笑)。痛みや苦しみを軽減するために、外から薬物を投与するのではなく、自力で忘れさせる方法を人間は最初から持っていることになります。
意識による結果の違い
歯に意識を集中している最中はなかなか、痛みが消えないんですよ(笑)。意識が集中しますから。
「痛いよー」って集中してると痛みはなかなか引きません。面白いですね。怪我をした時にその傷をずっと見る人はなかなかいませんよね? どっちかって言うと目を逸らす場合が多いです。見ていると意識がそこに集中しますし、痛みは増すようにさえ感じます。
男性に至っては、出血性ショックで簡単に亡くなる例もあります。人が体内から失うと危ない血液量は約2000ccですが、男性は更に少ないのです。失血致死量に達してもいないのに、自分が「死ぬのではないか?」「こんなに血が出ている!」と思ってしまうと死期が早まります。
女性は生理などで自分が出血することに慣れているせいか、出血性のショック、致死量に達する前に亡くなる例は少ないんですよ。これは医者であっても同じでしょう。男性であれば死の危険があります。軍人で実戦経験があり、過去に出血を体験して助かった人なら一般人より遥かに凄い耐久性を示すでしょう。
知識の問題ではなく慣れ、結局はご本人の意識の問題なのです。意識は練習や体験無しに簡単に変革できなし。
それだけ人間の意識は大切なんですよ。生き残る気力にもなりますし、痛みを消すこともできる。ただし、その痛みを消す「ホルモン」は選択的に働きますし、いつも常に出続けている訳ではない。
代表的な脳内ホルモンとしてβエンドルフィンやドパーミンがありますが、そういった脳内物質でも出っ放しだと困るのです。いつも脳内がフニャフニャしていてぼんやりしていたら仕事にも運転にもなりませんし、反対に活発化、常時高回転していたら寝る事すらできませんよ(笑)その時々にあわせる必要があるのです。
難しいのは「意図的に制御すること」です。本来は痛みとは危険への警鐘であり、通達です。命の危険を避けるために伝わるもので、その情報を受け取ることができるから、人間は危険を察知できますし、悪い部位を知るのです。
それを出産時だけ、意図的に制御して薬を使わずに痛みを制御しよう、と考えた人達がいる訳ですな(笑)。今から数十年も前に。
ラマーズも変化してきている
この方法の初期の方法、つまり「パートナーに手を握って貰う」ようにする、とか「呼吸を一緒にする」ことで、痛みをパートナー(男性)と「分かち合う」などを考え付いた人は、天才ですね。
一説にはアメリカのインディオから、教わった人が始めたと言われています。最近になって解説や理解が進み、催眠と重なる部分がわかってきたんですよ。
初期のラマーズ法ではパートナーの男性に手を握ってもらうことが絶対条件でしたが、現在は違ってきています。シングルマザーなども増えましたし、女性の社会進出も著しい物があります。今は必ずしも男性の手(手伝い)を必要としない方法も模索されるようになりました。
意識の変革に他人の手の「温もり」を用いるのは、催眠においても有効な手法です。専門用語で言えばパス(接触法)と言われるもので私はよく用います。(テキスト参照)
ですが、それが必ず夫でなければならないとは限りません。もちろん、信頼する家族や夫であればそれはそれに越したことはないでしょうが、看護婦さんや医者、友人や兄弟であっても基本的には構わない筈なのです。
もっと突き詰めれば、自分自身でも練習次第では行える筈なんですね。
難しいのは私は男なんですよ。
残念ながら「ちょっと(楽な出産方法を)調べてみたいから妊娠する」訳にはいきません(笑)。実践主義の私は、色々なものを自分の身体で試すことが多いのですが、第三者とか妊婦を使って実践する訳にもいかないですね。
自己催眠で痛みが消えるのかどうかを確かめてみたくて、親指の爪を自分でめくった、腕に針を刺してみたくらいのことは、当然、ありますよ(笑)。
自己改革の難しさ
催眠の技法、応用がある事は間違いないと思います。ラマーズ法はですね、自己催眠と他者催眠のちょうど、中間くらいにある、と考えれば理解し易いでしょう。
自己催眠からは微妙にズレます。上記した実験、「自分で自分の爪をはがす」のでは多少、痛いです(笑)。徐々に慣れて今は殆どの痛みを消すことに成功しましたが、私のようなことが行える人間は少数でしょう。
厳しい戒律の中で長年に修業を積んだお坊さんでさえも、護摩焚きの炎で火傷をする方がいます。反対にどう考えても火傷しそうな位置で平気で修業や勤行を行って長時間、念仏を唱える方もいます。意識改革は個人差があってそれなりに難しいのです。
だから「他人の手」や「ぬくもりを借りる」のです。呼吸を整え「一緒に苦しんでもらう」のです。その意識を両者が共有することで夫婦の絆を強め、子供の誕生の喜びを分かち合うのでしょう。
この方法を考えた人は天才だ、と私が思うのは「痛みが消える」ことにではなく、これを夫婦(パートナー)との関係に置き、痛みを相互に分かち合う手法にして特殊な人間や長期間、修業を積んだ人間ではなく、一般の主婦や普通の妊婦にできる方法に拡大したことが素晴らしいことだと思っています。
自己改革、自己催眠や自己暗示「だけ」の利用はかなり難しいのです。
私は爪を剥がそうと平気ですし、指詰めるくらいはできるかもしれません(笑)。奥歯をペンチで抜く、足の骨折くらいでは痛いと言わないかもしれません。要するに、その程度はやったことがある。自己暗示を強烈にやったので、痛みや苦しみを我慢できる傾向が強く、腕立て伏せを数百回連続でやったり、長時間、片足で立ち続ける、断食を数日行う程度はできます。
が、麻酔も効かないほどの痛み、例えば尿路結石で救急車で運ばれるような事例もありますから、自己催眠だけで全てを片づけるのは不可能でしょうね。
練習は誰かと一緒に
自己催眠は自分自身で、自己の改革を目指す物です。よく勘違いしている人がいますが、だからと言って自己催眠は「全部、一人で」行えばいい、と言う物ではありません。導入部分は、誰かと一緒に練習しても構わないんですよ。
ラマーズ法の優れている部分は、出産を控え、不安な気持ちも抱えている妊産婦に、同じような環境にある女性の姿を見せ、また、一緒の呼吸法や観念動作を練習するようにして不安感や痛みを「同じ環境にある人と共有する」部分にあります。
特に始めて出産を迎えるお母さんにはいい方法だと思います。皆、始めての体験は不安になります。まして、出産は人生においても一大イベントです。昔は出産時の死亡例は極めて高かったんですよ。今も発展途上国では亡くなる方がたくさんいりゃっしゃいます。
最初の現象ありき、です。理屈や解説は現象の後にくっつくんですよ。痛みが軽減し、少しでも楽になる人が増えるならばそれでいい、と私は思っています。
誰かの手助けを得て、そこから痛みを軽減し、自分の生活や出産に活かせるならばこんなに素晴らしい話はないと思います。ラマーズ法においては副作用などの報告はありません。ラマーズ法を用いても痛みが軽減しない、出産になった場合に難産である、逆子や痛みがあまりにも激しい場合には帝王出産に切り替えてくれる病院もありますよ。
ラマーズ法について練習会を行っている施設や病院は各地にあります。興味がある方や出産を控えている方はぜひ、問い合わせて下さい。
このコーナーを読んでいる世のお父さんも、嫌がったり面倒くさがったりせず、一緒に練習に励んでください。何も私のように爪を剥がせとか、腕に針を刺せ、切りつけろとは言いません(笑)。
自分の奥さんと子供を愛おしいと思い、一緒に痛みを分かち合おうと思い、わからないままでもいいですから時間を割いて一緒にいることこそが、奥さんを励まし、家族を支える力、子供さんが無事に生まれてくる励ましになると思います。
狭い範囲で考えないで
先に書いたラマーズ法で痛みが消えた主婦の方は、その後、私の催眠誘導に気持ち良くかかりましたよ。「おかしいなー?」と頻りに頭を捻っていたのが、印象的でした(笑)。
私にすれば催眠にかかるための基礎トレーニングが終わっているのですから、催眠にかかった経験のない人を誘導するよりは遥かに簡単だったのですが、やはり不思議だったのでしょうね。
その方にも、後でそういった事情を説明すると、彼女にも朧げながら理解できたようです。
「催眠だ!」と変に身構えてその部分にだけ変に執着したり反応するから勘違いするのです。そういったものではありません。社会に心理学や催眠の応用の技術はたくさんありますよ。これはほんの一例に過ぎません。
催眠を学ぼう、心理学を齧ろうという方は、狭い範囲で考えず広く物事を見ればわかりますよ。自分の視野や広く広く持ちましょう。知識の幅を狭めるのは偏見です。心理学を学ぶものが最初から色眼鏡で見ていたのではたのしくないですよ。
広い範囲で物事はみましょう。
知識を広げるのは好奇心です。好奇心は「不思議だな」「面白いな」と思う心が育てるのです。自らの好奇心を満たすため、偏見を持たずできる限り幅広いものに目を通し興味を持ちましょう。
その興味こそが、技術や意識を高めると思います。
2000年04月15日初稿
2006年01月20日加筆修正、改訂
谷口信行



